Complete text -- "週刊金曜日責任編集 行ってはいけない! 2"

18 April

週刊金曜日責任編集 行ってはいけない! 2

翌朝も冷たい雨が降っていた。
空も街も人も、全てが灰色に見える。
旧共産圏の建築物はどれもこれも似たような灰色をしているのだ。


こんな高い宿に居たのでは遠からず破産は確実だった。

雨の中、別の宿を探しに出る。
ここでもまた目的地が見つからずに苦労することになる。
看板が出ていないのだ。
出ているのかもしれないが、少なくとも宿の名前はどこにも見当たらない。
外観が全く宿らしくないのも困りものだ。

今度の宿は市内からは随分と遠い。バスで30分。
1500テンゲ。約12$半。
それでも相当に高いと感じるが、アルマトゥでは最安値の部類だろう。
シャワーはやっぱり別料金。
僕はアルマトゥ滞在中、結局3回くらいしかシャワーを浴びられなかった。
ここも旧インツーリスト系のオンボロ宿で、少し上品な廃墟といった体だ。
おまけに建物の中に音楽カフェがあるらしく、毎晩毎晩、人が寝ようと思う頃に馬鹿でかい音で下らない音楽が鳴り響くのだ。
それが一晩中続く。これには閉口した。

もちろん、ここはツーリスト向けの宿ではない。
周辺国から流れて来た人々が長逗留する場所なのだ。アフガン人やキルギス人であふれ返っている。

言葉で苦労したが、なんとかベッドを確保。
宿のレセプションにはパスポートを常時預けなければならないらしい。
ウズベキスタンのビザを申請しに行くからと申し出ると、デポジットとして2000テンゲ払えと言う。

そりゃ一体何の為のデポジットだ?
そもそもこれは俺のパスポートだろう。

だが、従うより他ない。


氷雨の中、ウズベク領事館へと向かう。
ガイドブックには15時から営業と書いてあったのでその時間に着いたのだが、実際は14時半からで、既に人が大勢集まっていた。
領事館の前には門番小屋があって、そこにカザフ人のポリ公どもが詰めている。
領事館への出入りは全てこのポリ公が管理しており、奴らの許可なしには入ることも出ることもできない。
その日はロシア系のポリ公がいて、僕の顔を見ると、ヴィーズ?と声をかけてきた。

どこから来たの?
イポーン?
そいつはハラショー。
じゃあそこら辺で待っててね。

言われた通りに待つ。
気温は低く、歯の根が合わないほど寒い。
領事館へ出入りする通路は鉄の門で閉ざされており、その鍵の開け閉めがポリ公の仕事だ。
一人出たら、一人入る。そういうシステムらしい。

僕は自分が呼ばれるのを震えながら待っていたのだが、一向に声がかからない。
1時間が過ぎ、2時間が過ぎ、その場にいるアフガン人達は一人また一人と建物の中へ入って行く。

あの、本当に呼んでくれるんですか?
せめて申請用紙だけでももらいたいんですが?

そう声をかけてみたが、大丈夫大丈夫、外で待っててと言うばかりのポリ公。
そのうちに勤務交代の時間が来たのか、そいつは帰ってしまった。

そして17時半。
アフガン人は皆帰ってしまい、僕だけが間抜けにもまだ待っているという状態。

どうなってるんだろう?と後から来たポリ公に訊くと、「クローズ」とぬかしやがった。手でバツ印を作って見せる。

はあ?
どういうこったそりゃ?
俺はこの雨の中、2時間半も待ったんだぞ。
お前らが待てと言ったからだろうが。

どういうことか説明してくれ、と英語でまくし立てたが通じない。
ポリ公は「ザーフトラ」と言い残して門番小屋へ入ってしまった。

ザーフトラはロシア語で明日。
明日また来いということらしい。
ううむ、またもロシア式か。
僕はがっくり肩を落として帰路に就いた。

しかし、これは僕が迂闊だったのだ。
ロシア式ホスピタリティゼロのポリ公に言われたままぼけっと待っていたなんて。
当然、順番待ちリストがあってしかるべきなのだ。
ちょっと考えればすぐにわかることだ。


翌日は打って変って晴天。
僕は14時半きっかりに領事館へ着いた。
門番小屋の前には既に順番待ちの列。

僕は詰め所へ入り、パスポートを見せ、ウェイティングリストに名前を書いてくれと訴えた。
この日居たのは人相の悪いアジア系のポリ公。
いつでも、どこでも、誰でも、必要とあらばその警棒で躊躇なく殴りつけるという感じの雰囲気だ。
例によって英語は通じず、外で待ってろと無理やり押し出されてしまった。
そして、ここへ並んで待て、と。

リストに名前を書くのにも順番があるらしい。
こんなことをしていたら、その内に領事館の周辺一帯が順番待ちのフラクタル現象になってしまうではないか。
順番待ちリストの為の順番待ちリスト。そのまた順番待ち…。

今日も領事館へ入れないのだろうか?
暗い疑念がよぎる。

だが、今思えば、この日も領事館へ入れない方が良かったのだ。
そうすれば、僕は短気を起こしてキルギスのビシュケクへと移動していただろう。
ビシュケクにもウズベク領事館はある。
雪崩のことは気にならないではないが、ビザの申請すらもいつできるかわからないような場所へ通い詰めるのは真っ平だ。
カザフのようなクソッタレ国に2週間もいる必要はなかったのだ。

しかし、ここが死神の腕の見せ所。
まさに悪魔の配剤。

この日、ポリ公は気まぐれを起こした。
まず、そこに待つ人々に申請用紙が配られ(当然僕ももらった)次いでウェイティングリストにも名前を書いてもらった。
そして、あろうことか僕の順番が来て、領事館へ入れてしまったのだ。
領事の実務能力は恐ろしく低いらしく、中でもよくわからないまま散々待たされたが、最後には申請が受理された。
これはほとんど僥倖に近かったと思う。

ただし、受け取りは7日後。
中3営業日もかかる上に、週末とウズベクの祝日が2日も間に入るのだ。
僕は滞在3日目にして既にロシア式に相当うんざりしていたので、一週間も無為に過ごすのは耐えがたかった。
でも他に仕様がない。
何はともあれ、申請は受け付けてもらえたのだから。

パスポートホールディングはなし。
申請を受け付けた旨の証明書もなし。
ちょっと妙なシステムだが、まあそんなものだろう。


僕は宿にパスポートを預け、デポジットを取り返した。








00:00:00 | ahiruchannel | |
Comments

wistaria wrote:

またおあずけですか!?
引っ張るねー

よだれたらして待ってます(笑)
04/19/08 03:10:39

こ0すけ wrote:

僕も

引っ張るねーって思ってます (笑)

こないだのメールにも一言もこの事件に関すること書いてなかったし。

ちなみに休暇届け出しましたよ。ホンマに会うのですな。楽しみ楽しみ☆
04/19/08 22:51:49

ahiruchannel wrote:

>>wistaria

実は、ストーリーが長すぎるので執筆(?)にかなり時間がかかるのです。
週間雑誌の連載のようなもんです。

>>こーすけ

よしよし、着々と準備は進んでるようですな。
スペイン食い倒れの王道を歩もうぞ。
04/20/08 00:21:27

beautiful-hair wrote:

文章がサスペンス調になって来ましたね。
次が楽しみだ。
しかし言葉もろくすっぽ通じないし、カザフでの苦労は察するに余りあるものがありますなぁ。
カザフでは現大統領は終身現職であるらしく、ここからも、我々の予想を凌駕する国であると、わかりますね。ま、他のスタン達もにたようなもんでしょうけど。
04/20/08 21:07:13

ahiruchannel wrote:

>>beautiful hair

この辺の国はどこでも同じだね。
ソ連崩壊の時にそれぞれの共和国でトップだった奴らがそのまま大統領に納まったから。
04/23/08 03:48:44
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