Archive for October 2009

23 October

景 14 アジアの至宝



小学生の頃、暇さえあれば眺めていた「世界の不思議」という児童書。



ナスカの地上絵、ギザのピラミッド、バミューダトライアングル、謎の人面石像モアイなど、ミステリアスな建造物や自然をイラストと写真で紹介した本だ。



他のどの「不思議」よりも、僕はアンコールワットのページを熱心に読んだものだ。

伝説とされていた巨大寺院群を仏人探検家が密林の奥地に再発見するくだり。
バイヨン寺院の四面菩薩像の微笑み、象徴的な六つの尖塔が屹立する本堂。



それら全てが、頑是無い子供を夢中にさせるのに十分な魅力を持っていたように思う。
なぜ菩薩の偉容にこれ程惹かれるのだろうか。
アンコールワットは永らく、憧れの地だった。



その頃、TVでは連日のようにカンボジア内戦のニュースを伝えていた。



曰く。
プノンペンより○○特派員の中継です〜。
ポルポト派の攻勢が続いています〜。



なぜ今もって戦争が続いているのか、僕には全く理解できなかったが、子供心に一つだけ思っていた事。

この争いは後何十年続くのだろうか。
そして、この先、アンコールワットを訪れるような機会が僕の人生に巡ってくるのだろうか。





数年の後、内戦は収束し、ポルポト派は辺境へと敗走した。
カンボジア王国は長い混迷の時代を経て、一般旅行者に門戸を開放したのだ。



初めてアンコール寺院群を訪れたのは26歳の時だ。

バンコクから国境までバスで行き、さらにトラックの荷台に放り込まれて一路シェムリアップを目指した。
道路状況は想像を絶して悪く、そこかしこに穴ぼこがあり、未舗装路からは土ぼこりが舞い上がった。
あちこちで明らかに堅気ではない連中が検問を張っていた。
内戦時代の銃器が広く出回っていると聞いていたから、僕は有り金を靴の底に隠していた。

早朝にバンコクを出たのだが、着いた時には日付が変わっていた。
身体の節々が痛み、顔を拭ったタオルはべっとりと茶色に染まった。

散々な道中だった。
でも、文句なしに素晴らしかった。



回廊の石壁に触れると、ひんやりと心地がよい。
時間が止まったかのような静かな遺跡の午後。
僕が思い出していたのは「世界の不思議」と、それを何度も読み返していた幼き日々だった。




02:45:46 | ahiruchannel | 2 comments |