Archive for 12 April 2008
12 April
健啖なる旅の胃嚢を充たす為に 2
結局、中国の旅はちょうど1ヶ月間だった。雲南省でしばらくごちゃごちゃとやって、その後シルクロードの起点である西安に移動。
河西回廊、新疆ウイグル自治区と進み、カザフスタンへと抜けた。
そのカザフの旧都で理不尽な災厄に次々と見舞われた訳だが、あまりにも恨み深く、書くことも多いので、次回に回す。
それよりも、忘れない内に中国の旅を総括しておきたいと思う。
総括と言っても、アレではないよ。
誰かを拉致って集団で暴行を加えたりとか。
自己批判せよ!とかね。
先にも書いたように、中国という国は本当に無茶苦茶な所である。
文化民度はもう信じられないくらいに低い。
国中どこへ行ってもごみだらけ、人々はそこかしこで痰を吐き散らし、のべつ煙草を吸いまくる。
公衆トイレは想像を絶する世界。
車の運転はすこぶる荒く、信号なんか誰も守っちゃいない。
人より車優先の感があり、ひき殺されないように常に注意していなければならない。何しろ歩道だろうが何だろうが猛スピードで突っ込んで来るのだ奴らは。
割り込みなんかは朝飯前。毎日誰かしらにぶつかられ、押しのけられ、いつまで待ってもものが買えない。
確かに急速に経済発展しているのはよく分かるのだが、それに民度が全く追いついていないのだ。
よくもまあ、こんな国でオリンピックなんか開こうと思ったものである。
200年は早いという気がする。
当局は躍起になって北京市内の人民のマナー向上を指導しているらしいが、きっと無駄だろう。
TVでも白々しいマナー啓発コマーシャルをよく見かけるが、要するに、お上主導でそういうことをしなければならないほど民衆の意識は前近代的なのだ。
ま、何しろ人の数が多すぎるからね。
他人に遠慮して慎ましくやってなんかいたら、あっという間にうつ病になってしまうのかもしれない。
オリンピックはどうかTVだけで観戦されることを強くお勧めする。
さて、散々こき下ろしておいて何だが、今回は中国の悪口を書くのが目的ではない。
おいしい、楽しい、ご飯の話をしよう。
ここで、このブログを読んで頂いている方々に大変な告白をします。
僕は、1ヶ月の間、中華料理以外のものを、一切口にしていない。
うむ。
我ながら阿呆ではないかとも思うのだが、紛れもない事実である。
朝、昼、晩。す・べ・て・中華。
それを30日間。
スーパーサイズミーを地で行く無謀っぷりだ。
土地によっては、ペー族やウイグル族の料理なども食べたが、味に大差ないので便宜的に中華料理に含める。
文化人類学者じゃないからね。
当たり前と言えばこれほど当たり前の話もないのだが、中国で食べる中華料理は滅法うまい。
なおかつ嘘みたいに安い。
1日2〜3食で平均30元ほど使っていたが、邦貨にして450円程度か。
もちろん、僕がバックパッカーであるという事情はある。
フカヒレとかアワビとか、北京あひるとか、そういうものを高級レストランで食べればすぐに100$200$と使う羽目になるだろう。
あくまで現地人しか行かないような(きったない)大衆食堂の話である。
そんなんでお前、腹は壊さなかったのかですと?
壊しました。壊れっぱなしです。
新しい街に行く。その土地のものを食べる。腹を壊す。それでも構わずに食べ続ける。
すると、胃腸が適応するのか3日目くらいから調子がよくなる。
だが、次の街へ移動するとまた腹を壊す。
僕にとって、長旅とはその果てのない繰り返しである。
飲み水だけはミネラルウォーターを買うようにしているが、後は格別に気を遣うということはない。
食堂で茶が出ればごいごい飲むし、市場でキュウリを買ったら水道水でざぶざぶ洗ってそのままかじる。
歯磨きもタップウォーターでやってるしね。
話を戻そう。
そのようにして、朝から晩まで中華料理を食べまくっていた訳だ。
雲南省では、朝、昼は主に麺類を食べた。
日本でいうところのラーメン、つまり小麦粉麺は面条といい、米の粉で作った麺はミーセンという。
どこの食堂でも牛肉面、酸辣面などの基本的な麺を出した。
ミーセンはこの辺りの名物なのだが、ぷつぷつとすぐに切れてコシがないので、僕は面条の方が好みだ。
場合にもよるが、何も考えずに麺を頼むと大抵は赤いスープに浸かって出てくる。
辣。つまり辛いのだ。
それを起き抜けにひいひい言いながらすすり込む。鼻水も涙も一緒になって垂れ流し。
安食堂のテーブルには必ずトイレットペーパーが設置してあるが、それにはちゃんと理由があるのだ。
この麺はだいたい5元が相場。100円しない。改めて考えるまでもなく、阿呆みてえに安い。
夜はいわゆる中華料理とされるものを食べた。
麻婆豆腐、青椒肉絲など、メニューに見知った漢字が並んでいる。
そういう親しみのある料理から始めて、毎晩違う皿にチャレンジしていった。
何を注文しても本質は同じ。
肉、野菜を多量の油で炒め、「中華味」がつけてあるのだ。
僕は中華が大好きなので、コテコテ、ギトギト、ドンと来い、である。全く苦にならない。
おかず1品、米飯、ビール大瓶1本。
どの店でもこういう頼み方をした。
ちょっと高級志向の店だと(と言ってもたかが知れてるが)1皿しか注文しねえのかよ?という目で見られることもあったが、これはまあ当然だろう。
人民は必ず複数でやって来て、いくつも皿を取って、盛大に残して帰るからだ。
我々とは違って、勿体ないという発想がないのだと思う。
もちろん料理は極めつけに安い。
1皿が8〜15元、米飯1〜2元、ビール5〜7元。
毎晩300円ほどの豪華な晩餐だ。
「お通し」として、ひまわりやかぼちゃの種を出す店もある。
人民はこぞって手を伸ばしては、それらをポリポリとかじる。種の皮は床に捨てる。
あれは料理が出てくるまでの空腹をしのぐ為ではなくて、単に暇を潰しているのではないかという気がする。
そう思って改めて周りを眺めると、人民は国中どこへ行ってもしょっちゅうひまわりの種をかじっていることに気づく。
列車やバスでの長距離移動ではこれが必需品。
自らの席に着くやいなや、何はともあれひまわりの種が入った袋が登場する。
それを皆でポリポリ、カリカリ。全員で暇潰しをしている訳だ。
これはそこいら中にハムスターがいるようなもので、床という床はすぐに種の皮で埋め尽くされてしまう。
この打ち捨てられたひまわりの種の皮は、もうあらゆる場所で目にした。
前述の食堂や公共輸送機関はもちろん、道端で、公園で、便所で、宿の部屋で。
僕は自室の床に種が撒き散らされているのを見る度に、ため息をつきつつ、脚でベッドの下に払わなければならなかった。
何を食べてもうまかったが、一度だけ失敗した。
ひき肉の辛い炒め物という意味の料理だったのだが、輪切りの唐辛子が200本分くらいぶち込んであって、一口食べるごとに涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
うまさに感動した訳ではもちろんない。
結局1/3も食べられずに退散する羽目になったのだが、なめていると時々こういう目に遭う。
続いて西安に移動。
料理も様変わりした。
夜行で着いたので、早速朝飯に麺を食べに出た。
同じ牛肉面でも雲南のものとはまるで違い、幅広のキシメン状。
午前中はあちこちの店先で積み上げられた蒸篭が景気よく湯気を立てている。
肉まんと餃子である。
肉まんは包子、バオズと呼ばれ、可愛らしいミニサイズ。
底面の直径は2.5cmくらいで、8個から10個を蒸篭ごと出してくれる。
酢醤油につけてホクホクといただくと、口中に肉汁の味わいが広がってゆく。朝から幸せな気分になる。
これで3元。45円。
神戸は元町の南京町に有名な行列のできる肉まん屋があって、僕もよく通っていたのだが、ここでは同じサイズのものが1個80円だったか。
これだから貧乏旅行は止められないってんだ。ははは。
日本では中国から輸入したこの食品のせいで大騒ぎになったそうだが、僕は当該国を呑気に旅行中で、ことの顛末を何も知らなかった。皮肉なものだ。
そう、餃子。
蒸餃と水餃の2種類があって、どちらもよく食べた。
水餃はスープに麺の代わりに餃子を入れましたという具合で、ボリュームたっぷり。大変おいしい。
これの亜種で、砂鍋水餃という料理もある。
鍋でぐらぐらに煮立てたスープに餃子が潜んでいる。
鍋で出す必然性があるのかどうかはともかく、これもいける。
ちなみに、焼き餃子はただの一度も見かけなかった。
さらに新疆ウイグル自治区へと進む。
ここらは東テュルキスタンとでもいうべき土地であり、チベット同様、中国に含めるにはかなり無理がある。
ウイグル人は顔つきも言葉も漢族とは全く違う。
社会の仕組みもより共同体的、かつバザール的だ。
街中ではずんぐりしたウイグルパンやケバブを商う屋台をよく見かける。
だが、中華との混血料理もある。
例えば、包子(新疆ではボウズと発音される)は、この地でもポピュラーな料理だ。
ウイグル人の店に入ると、中身が羊肉になるのがいかにもお土地柄。
彼らは、清心、つまりはムスリムなので豚肉は口にしないのだ。
味付けは中華に近いが、よりスパイシーになる。
酢醤油につけて食べるのは同じ。シルクロードと中原のクロスオーバーである。
その他、僕が好んで食べたのは拌面という料理だ。
ウイグル語ではラグマンと呼ぶ。
ぶっかけ皿うどんとでもいうべきもので、太めの小麦粉麺に肉野菜炒めをかけていただく。
この麺料理の比類なき美点は、注文してから職人が麺を打ち始めることだ。
小麦粉の塊をバンバンと打ち付けていると思ったら、見る間にばらばらとほぐれて麺になってゆく。奇術でも見ているかのようだ。
それを大鍋で湯がいている間に、別の調理人が中華鍋をふるう。
最後に皿にあけられた麺に、たっぷりと具をかけて出来上がり。
これは掛け値なしにうまかった。
毎日2回ずつ食べたほどだ。当然腹を壊した。
なぜそんなにも拌面に魅了されたかということだが--ここからが本稿で一番大事なところだ--この麺、フィギュアもテクスチュアも、あの讃岐うどんに酷似しているのである。
僕は毎年高松近郊へのうどん詣でを欠かさず行い、内地ではカトキチの冷凍讃岐うどん以外、うどんと名のつくものは一切口にしないという自他共に認める硬派だ。
それが、中国の端っこで、こんな素敵なうどんに出会えるなんて。麺文化は偉大だ。
余談だが、このウイグル風ラグマンは周辺諸国でも食べられる。
それで、カザフスタンに入ってから一度だけ試してみたのだが、どうしようもなく不味かった。
ラジアルタイヤの細切りに醤油をかけてあるのか?
やはり、中華との混血という所にポイントがあるらしい。
飯がうまく、しかも安い。
それは文化が豊かな証左である、というのが僕の持論だ。
食に心血を注ぐ民を、そして彼らの食を僕は愛する。
わざわざ辺境の地へ出かけて行って、その土地の美味しい一品にめぐり合う。
これは案外旅の本質かもしれない。
誰かが言っていた。海の味を知るには、一滴飲めば十分なのだと。
それにしても、中国のこの圧倒的に豊かな食の創造性、感性と、人民のモラルの低さがどうしても結びつかない。
不思議な国である。
おまけのエピソードをひとつ。
昆明では茶花賓館というパッカーの間では有名なユースホステルに泊まった。
ユースらしく情報ノートなんてものも置いてある。旅の知識やお役立ち情報を皆で共有しようという訳だ。
真に有益な情報から、便所の落書きのようなものまで、中身は種々雑多。
そのノートにこんな書き込みを見つけた。
どこの国の旅行者かは失念したが、英語の記述だったので白人パッカーだろう。
CAUTION!という書き出しでそれは始まる。
やあ、みんな。
この近くにある「ママフーレストラン」には気をつけた方がいいよ。
僕たちはそこでハワイアンピッツァを食べたんだけど、次の2日間、ベッドとトイレを往復する羽目になったからね。
だいたい、ここのピッツァは小さいし、その割に値段が高いし、たいしておいしくもないし、お勧めしないよ。
異国の地で腹痛で大いに苦しんだという点は同情に値しなくもない。
うむ。
でもなあ、やっぱりこいつらは阿呆ではないか?
どうして雲南省くんだりまでやって来て、わざわざピッツァを、それもハワイアンピッツァなんてものを食べなきゃいけないんだ?
うまくて安い地元の食がこんなにも充実しているというのに。
偏見100%で言わせてもらうが、白人ツーリストにはこの手の阿呆が多い。特に東南アジアではよく見かける。
ツーリスト向けのカフェに群れ集って、ビール瓶を何本も空にし、馬鹿騒ぎしながら、フライドポテトとか、グリルドチキンとか、パンケーキとか、そういう安直でしょうもないものをツーリストプライスで食べている連中だ。
ヴェトナムやタイ、ラオスまで来てなぜにパンケーキを食べる貴様ら?
そういう連中が大勢来るからこそ、ツーリストエリアが形成され、安宿やネットカフェが作られる訳だから、非難ばかりはできないのだが。
ま、他人のすることだから別にいいけどね。
という訳で、北京オリンピックは、ほかほかの肉まんをつまみながら、あるいはひまわりの種をぽりぽりとかじりながら、TVで観戦していただきたいと思います。
20:02:20 |
ahiruchannel |
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